岩手医科大学
歯学部同窓会

第49回(平成27年6月7日)

生体にやさしいチタン合金の開発と歯科応用
 -歯科鋳造から三次元造形への展開

服部 雅之 先生
服部 雅之 先生

講師:服部 雅之 先生
(岩手医科大学 医療工学講座 教授)

 材料開発とその製造方法や加工方法は、歯科医療がカバーすべきニーズの拡大とともにイノベーションのスパイラル軌道に沿って発展してきた。金属材料では、口腔内で腐食しにくい貴金属合金から、非貴金属のチタンやチタン合金に焦点があてられてきた。チタンやチタン合金は低比重、高耐食性、生体親和性といった素材の優れた特性に加え、超弾性、形状記憶、低弾性係数、超親水性、抗菌性などの機能が合金化や表面処理技術の進歩で付加されてきた。他方、コンピュータ技術の進歩は歯科医療においても製造加工方法の革新をもたらし、歯科用CAD/CAMによる製造加工も次世代へと発展し、従来からの切削加工に加えレーザーや電子ビームで金属粉末を焼結する積層造形技術も導入されつつある。研修会では、筆者らが行ってきたチタンの歯科応用に関する基礎的研究を振り返りつつ、その研究の一端を紹介させていただいた。

チタンと歯科臨床

チタンは半世紀余の歴史しかもたない新しい金属である。比重が4.54と軽く、耐食性や生体親和性に優れる金属材料として日常生活において様々な分野に応用されている。歯科領域では、1960年台に発表されたブレード型インプラントに端を発し、現在のようなチタン製インプラントの普及をもたらした。歯科インプラントには、顎骨に固定される部位、上皮組織が付着する部位、口腔内に曝される部位など、それぞれに適合した表面性状を有することが重要となっており、機能性を有するチタンやチタン合金を用いた歯科インプラントが普及してきた。チタンがインプラント材料として定着してきた理由には、優れた耐食性、細胞との親和性、カルシウムの吸着、アパタイト核形成の誘起、など骨との結合に有利な特徴が数多く報告されてきたことが挙げられる。骨とチタンの間にカルシウムの介在が大きな役割を果たしていることが明らかとなっており、チタン表面にハイドロキシアパタイトに似たリン酸カルシウムを被覆させたインプラントも数多く市販されている。その他、チタンとニッケルを1対1の割合で合金化したワイヤーで、超弾性と形状記憶を示すことが明らかとされ、チタンニッケル矯正線が普及してきた。さらに、1980年代になってチタンの歯科鋳造に関する研究が盛んとなり、次第に金属床義歯のプレートとしての臨床応用が広まった。

チタンの腐食と変色

チタンやチタン合金の普及と相俟って、チタン、チタン合金を応用した症例において、いくつかの問題が報告されるようになった。日常生活において、通常の飲食物や唾液に充分な耐食性を示すチタンやチタン合金であっても、ある環境においては容易に腐食が進行し、金属イオンが溶出する場合がある。このような事例として、フッ化物配合歯面塗布剤によるチタンの溶解や変色がある。チタンは生理食塩水や歯磨剤にはほとんど溶出しないが、フッ化物配合歯面塗布剤や洗口剤では容易に腐食し、チタンが溶出する。また、チタン床義歯をある義歯洗浄剤に浸漬すると、黒色に変色することもある。筆者らは、市販のフッ化物配合歯磨剤、洗口剤、歯面塗布剤および義歯洗浄剤でのチタンおよびチタン合金への影響を調査したところ、①フッ化ナトリウム濃度の高いフッ素含有歯面塗布剤、特に、リン酸酸性溶液とのチタンの接触、②強アルカリ性過酸化物系の義歯洗浄剤へのチタンの長時間浸漬(図1)、がチタンやチタン合金の腐食と変色に関与することを明らかにしてきた1, 2)。

図1 アルカリ性過酸化物系の義歯洗浄剤に8時間浸漬したチタンおよびチタン合金
図1 アルカリ性過酸化物系の義歯洗浄剤に8時間浸漬したチタンおよびチタン合金

口腔内で耐食性を有するチタン合金開発

これらの知見に基づき、チタンインプラント埋入患者やチタン床義歯装着患者に対しては、フッ化物製剤やアルカリ性過酸化物系の義歯洗浄剤の応用は充分な注意下で、歯科医師はそれを理解したうえで施療することを提案してきた。一方で、これらの薬剤に対して耐食性の高い金属材料の開発が必要であるとの認識から、筆者らはフッ化物、過酸化物製剤に対して耐食性を有する新規チタン合金について検討し、クロム含有チタン合金が有力であることを見出した。クロム含有量の異なるチタンクロム系合金を905 ppmのフッ化物を含む酸性溶液中に浸漬したところ、その合金からのチタンとクロムの溶出量はクロム含有量の増加に伴い減少する。チタンクロム合金表面には、大気中でもチタンとクロムを含む酸化膜が形成されているが、フッ化物を含む酸性溶液に浸漬すると、この酸化膜のクロム含有割合が大きくなっていた。このことから、フッ化物に対するチタンクロム合金の耐食性は、チタンとクロムを含む酸化膜によって与えられているとともに、クロムの酸化物が特にフッ化物に対する耐食性向上に寄与することを明らかにした3)。

口腔内に装着された歯冠修復物は、咬合による荷重を受けるため、機械的性質も重要な因子である。このチタンクロム合金は、10 mass%以上のクロム添加で純チタンより2倍近く大きい約900 MPaの引張強度を有し、現在、臨床で使用される一般的な歯科用合金と同程度、もしくはそれ以上に優れた機械的性質を有している4)。さらに、20 mass%クロム含有チタン合金をボランティアの口腔内に300時間装着しての試験では、装着後の同合金の表面構造や色彩変化は、既存の歯科用合金と同等との結果であった5)。

おわりに

貴金属ならびにレアメタルの価格高騰により、保険適用材料である金銀パラジウム合金の価格も上昇し、新たな金属材料の出現が期待されてきた。審美的観点からCAD/CAMによるコンポジットレジンやセラミックス修復が脚光を浴びているが、チタンの利点を損なわない新規チタン合金が、インレーからクラウン・ブリッジ、硬質レジン前装冠ならびに陶材焼付鋳造冠のフレーム、金属義歯床、CAD/CAM用などに応用可能な多用途合金として歯科臨床への適用が可能となれば、同一金属による口腔内の修復が可能となる。異種合金によるガルバニック現象を起因とした金属イオンの溶出による電解腐食、変色、味覚障害なども防止できることからも、実用化に向けてさらなる探求を続けていきたいと考えている。

本研修会での講演内容は、前所属先の東京歯科大学歯科理工学講座で行ってきた成果であります。関係の諸先生方の多大なるご協力で行われましたこと付記させていただきます。

文献

  1. Ide K, Hattori M, et al.: The influence of albumin on corrosion resistance of titanium in fluoride solution. Dent Mater J 22: 359-370, 2003
  2. Noguchi T, Takemoto S, Hattori M, et al.: Discoloration and dissolution of titanium and titanium alloys with immersion in peroxide- or fluoride-containing solutions. Dent Mater J 27: 117-123, 2008
  3. Takemoto S, Hattori M, et al.: Corrosion mechanism of Ti-Cr alloys in solution containing fluoride. Dent Mater 25: 467-472, 2009
  4. Hattori M, Takemoto S, et al: Effect of chromium content on mechanical properties of casting Ti-Cr alloys. Dent Mater J 29: 570-574, 2010
  5. Takemoto S, Tasaka A, Hattori M, et al.: Discoloration of Ti-20Cr alloy in oral environmental and its surface characterization. Dent Mater J 31: 1060-1067, 2012
服部 雅之 先生

総義歯治療ー変わらないもの,変わりゆくものー

遠藤 義樹 先生
遠藤 義樹 先生

講師:遠藤 義樹 先生
(盛岡市開業、岩手医科大学 歯学部臨床教授)

 私は,故Carl O Boucher教授に直接の指導を受け,米国ワシントン大学St.Louis歯学部有床義歯補綴学講座Chairmanを経て,岩手医科大学歯学部歯科補綴学第一講座教授に赴任された,現岩手医科大学名誉教授の田中久敏先生のもと19年間にわたって有床義歯補綴学の臨床・教育・研究に携わってきました.そこで学んだ総義歯補綴学はCarl O Boucherの理念そのものであり,田中久敏先生のご指導のもと,そのまま臨床・教育に反映させてきました.大学を辞して10年となった現在,臨床手法を変更した部分はあるものの,大きな幹は変えておりません.
 今回の講演では,現在でもなお混沌とした総義歯治療に関わる内容を5つのテーマに分けてお話させて頂きました.

1.多種多様な総義歯製作法

 義歯の形が悪い,内面の適合が悪い,あるいは人工歯がすり減っているなど,歯科医師の所見が「不適切な義歯」であっても,それが必ずしも患者にとって悪い義歯とは限りません.長期間,患者の身体の一部となって機能している義歯は,「患者にとってよい義歯」と歯科医師は認識すべきと考えます.同様に学術的に有利と考えてリンガライズドオクルージョンを付与しても,患者が「使いにくい」と判断してしまえば,その義歯は「よい義歯」とは言えないと考えます.そもそも補綴治療の本質が,力学的・審美的問題の解決を目指して行うリハビリテーションであり,患者のQOLを高める治療であることから,治療のエンドポイントは患者の求めるQOLに依存します.現在,研究論文において総義歯の治療効果を客観的に評価する手法として,OHIP(Oral Health Impact Profile)を代表とするアンケート調査を主体とした「患者満足度分析」が多く用いられてきているのも,患者のQOL向上が得られたかの判断が求められるためと考えます.総義歯治療においてさまざまな印象テクニックや人工歯排列法が存在し,それをシステマティック・レビューで検討した論文がありますが,この報告では,患者満足度に関して義歯製作方法の違いや,リンガライズドオクルージョンとフルバランスドオクルージョンの違いなどがもたらす差はほとんどないという見解が示されています.しかし,それぞれの義歯製作方法には一つの共通点があり,それは適切な下顎位(水平的顎間関係)が設定されているということです.新義歯に対する患者満足度には,顎間関係の正確性(CR記録の正確性と適正な安静空隙)が強く関連し,また顎間関係の正確性には下顎義歯の維持と下顎顎堤条件が影響を及ぼすことが明らかとされています.

2.大学教育で学ぶ総義歯治療

 総義歯製作の各過程において,印象以外の全ての問題がその解決を印象の成功に依存していることから,各臨床家が目的とする総義歯補綴の成功を得るためには印象採得が重要な意義を持つと考えます.成書は「辺縁形成(筋圧形成)を行い,義歯床縁は可及的に大きくつくる」と教えていますが,無歯顎口腔には境界線がなく,軟組織に囲まれていることから,成書を理解しないで言葉を信じると大きな誤りを犯します.そこで機能解剖,すなわち義歯床を取り囲む組織がどのように構成されているか,また顎堤の性状および形態を十分に理解し,義歯を支持(support)する領域をどの部分にするかを見極めて,力を加える配分を考えることが重要です.  これまでの教科書は主としてテクニックの紹介が主であり,総義歯の印象がどうあらねばならないか,という本質的な解説を示したものは少ないと感じています.その理由として,総義歯の印象方法には従来から国内外で種類と手法が多く,そのいずれも一長一短がある上に,術者のスキルや熟練度によって臨床成績に極端なバラツキが生じることから,特定の印象方法の推奨が困難であるためと考えられます.そこで日常臨床においては誰かの方法を採用することとなり,これに手慣れてしまうとどれを応用してもある程度の成績が得られることから,自分の方法でよいものと錯覚してしまい,疑問を感じなくなる臨床家が多いのが実情と考えます.以前と比較して総義歯補綴の基礎実習ならびに臨床実習が十分に行えなくなった現状では,大学を卒業してほぼ初めて総義歯補綴を手掛ける歯科医師も少なくないと聞きます.今後は,統一された基準をもとに,よりシステマティックな製作方法の検討がさらに進んで行くもの考えます.

3.下顎吸着義歯

 「吸着」という言葉が多用されつつある昨今でも,最新の歯科補綴学専門用語集への収載はありません.しかしながら,前述したように義歯に対する患者満足度には,顎間関係の正確性が強く関連し,これには下顎義歯の維持が大きく影響することから,下顎義歯の強い維持力を求める手法が着目されつつあり,「吸着」の技法を確立された東京都でご開業の阿部二郎先生は,現在国内のみならず,世界各地で講演依頼が殺到されています.吸着を得るための手法については,阿部二郎先生のご著書を熟読されることが一番です.各個トレーとスティック・コンパウンドを用いた術者主導型の印象術式は,術者の診断力と技能に多くを依存することから,難易度が高いのが事実です.しかし,口腔内の解剖学的・組織学的知識を学ぶ上でも,卒前教育には欠かせない術式であり,かつ部分床義歯の印象に不可欠な術式でもあります.一方,「吸着」を目的とした閉口機能印象法は,トレーとなる咬合床の設計を誤らなければ,比較的容易かつ短時間に印象採得が可能な術式です.どちらを選択するかは,術者側の熟練度と好みに依存するであろうと考えます.

4.水平的顎間関係の記録

適正な咬合高径を設定した上で,精確な水平的顎間関係を記録し,その場(下顎位)で義歯に均等接触を付与することが,総義歯治療の成功の鍵となります.
その下顎位の名称は中心位(Centric Relation,CR)と呼ぶことが,現在でも適切と考えます.CRの定義やその背景にある概念が,研究者や臨床家によって異なるため,混乱を招いているのは事実です.歯科医師間やコデンタルスタッフ間では,お互いの概念を確認して使用すべき用語と言えるでしょう.このCR記録を行う手法として,私はダイレクトチェックバイト法を用います.ダイレクトチェックバイト法とは,咬合堤(ろう堤)にて適正な咬合高径を確立した上で,術者の誘導により患者がCRにて閉口できるよう何度か試行・観察し,フローのよい咬合面間材料を用いて記録する方法です.咬合床に複雑な装置や重量のある装置を取り付けることは,患者の神経筋機構を阻害し,適正な下顎位記録が困難と考えます.術者の誘導によって記録される下顎位は,咬合床が顎堤にしっかりと適合していれば,精確にCRへ誘導できると考えます.この下顎位は,仮の中心位(tentative centric),あるいは基準位(reference position),あるいは治療位(treatment position)とも言うべき顎位であり,咬合採得以後のステップで再検討(再採得)する必要があります.無歯顎患者のCR記録は一度で決定できません.

5.CAD/CAMデンチャー

現在,米国では2社のCAD/CAMデンチャーがデリバリーされています.その製作費用と義歯の「質」を考慮すると,現時点で日本の歯科医師が興味を示すまで至らないと考えますが,簡単化・合理化に向かって急速に動いている時代にマッチして,飛躍的に伸びる領域であることは間違いありません.治療ならびに技工過程が複雑で、テクニックセンシティブであり、かつ義歯床用材料の汚染ならびに強度の問題を抱える現状の総義歯製作法を変える技術であり,今後の数年間のうちに手にとっていることと思います.わが岩手医大 補綴・インプラント学講座においても,近藤尚知教授のもと小林琢也准教授らがCAD/CAMデンチャーの新機軸を打ち出して研究を進めておられます.

以上をまとめると,総義歯治療の患者満足度を向上させるには,適正な高径で上下の人工歯が均等に接触する場(下顎位)を与えることが最も重要で,その下顎位(中心位)の解釈は,より自然で機能的な後方位であり,最後退位では無く,記録は一度で決まらないということ.そして,今後の総義歯治療のキーワードは「高度システム化」と「CAD/CAM化」であり,だれが行っても一定以上の成果が得られるものを目標とするであろうことです.今回の講演が,少しでもお役に立てれれば光栄に思います.

総義歯
遠藤 義樹 先生

どうすれば進む?医科歯科連携

萩原 敏之 先生
萩原 敏之 先生

講師:萩原 敏之 先生
(公益社団法人地域医療振興協会 石岡第一病院 口腔外科部長、茨城県立中央病院 茨城県地域がんセンター 非常勤歯科医師、筑波大学医学医療系顎 口腔外科学臨床教授)

本邦で医科歯科連携が提唱されて久しいが、実際に円滑に連携が進んでいる地域は少ないと考えられている。一昨年に中医協に上程された調査でも、がん医科歯科連携を行った経験のある医療機関は、一般歯科診療所で35%、歯科標榜のない病院でわずか6.7%との結果が出ている(スライド1)。うまくいかない原因はなんであろうか? 逆に考えると、うまくいっている事例は何が効を奏しているのだろうか? 8020推進財団の医科歯科連携事例集の共通項および筆者の経験から考えると、その一番の理由は連携を担うキーパーソンが必ずいることである(スライド2、3)。連携して新しい組織を作る場合の必要な3条件は、①目的がはっきりしていること、②牽引車となるキーパーソンがいること、③マニュアル化したシステムを構築することである(スライド4)。そしてこの順序が大切である。

医科歯科連携の目的はなにか? 国民が病気になったときにすみやかに治癒せしめるため、国民が要介護になった場合の悪化防止や在宅介護のため、そしてこのような病気悪化や介護状態に陥らないための健康長寿国を築くことであろう。この目的は地域によって多少違いはあるがはっきりしている(スライド5)。

つぎにキーパーソンである。各地域で情熱をもって連携を進める医師または歯科医師が必ず必要である。人数は一人でもよいが、医科歯科双方に数人いることが理想である。キーパーソンが歯科医師であれば、積極的に病院を訪問して病院医師と直接話し合い、栄養サポートチームに参加したり、病院訪問歯科診療を行ったりすることによって関係を深めることを推奨する。具体的にきっかけがつかめないときには、三師会を利用したり、個人的に親しい医師に連絡したりしてみてはどうかと思う(スライド6)。キーパーソンが医師であれば、積極的に歯科医師会へ連絡し歯科医師を病院内に呼び込み、直接話し合ったうえで定期的に勉強会を開いて関係を深めることを推奨する。一番大切なことは、直接何回か会って信頼関係を築くことである。信頼関係ができれば、今度はお互いに仲間を増やしていくようにする。組織としての医科歯科連携を進めて行く段階である。口腔ケアをしていくうちに患者さんの治癒期間が短くなるなど成果が現れてくれば、医師は積極的になり仲間は増えるはずである。一方、歯科医師側も今まで実感としてなかった命を救う医療に関われることで、医療人としてのやりがいが持てるようになり積極性が出るはずで、仲間は増えていくと思われる。ここまでくれば地域ごとの周術期口腔機能管理が入院、外来を問わずできるようになる。情報交換は規格化した診療情報提供書を用いるが、詳細確認は直接電話でもやり取りできるようにしておく。

最終的におおよその流れができたら、マニュアルを作成し連携をシステム化することである。役割分担を明確化し、それまでの経験を踏まえた実施内容を具体的に明文化する。誰が連携を行っても標準的な流れで行うことができ、次世代へもつなげることができるため、マニュアルによるシステム化は必ず必要である。これには診療報酬の受け取り方、医療安全面での責任者の明確化などを含め、連携によるトラブルがおこらないようにしておくことも大切である。参考として茨城県立中央病院の医科歯科連携マニュアル等をスライドに示す(スライド7~11)。なお、同病院には歯科標榜はないが医科歯科連携室が設置され、筆者が3年前から週1回、病診連携調整と入院患者の緊急歯科処置対応のために勤務している。また、筆者が対応できない時間帯の緊急歯科処置については、地域歯科医師会会員の月当番制で対応するシステムとしている(スライド12)。

繰り返しになるが、以上で大切なことは順序を間違えないことである。協定書や合意書を最初に作成してもキーパーソンがはっきりせず実際に何もしなければ、医科歯科連携は失敗に終わる。まずは実際に試行して、そのうえでマニュアルを作ることが医科歯科連携を進めるコツである。茨城県立中央病院マニュアルも試行のうえにつくられたマニュアルで現在運営されている。

もうひとつ大切なことは、情報を共有するための共通の知識と言葉を持つことである。そのためには、歯科医師への医学的知識補完のための勉強会、医師への歯科医学的知識補完のための勉強会を定期的に開くべきである。さらにはコメディカル、コデンタルスタッフ向けの勉強会も必要である。医科歯科連携は、上記のような病院における医科疾患での連携ばかりでなく、歯科診療所における医科コンサルト、介護や介護予防における連携など多岐にわたる(スライド13、14)。勉強内容はそれぞれの連携場面を踏まえて決定され、とくに超高齢社会に突入したわが国では高齢者特有の疾患、介護の現状などについて学ばなければいけない(スライド15、16)。筆者は、歯科医師向け、医師向け、スタッフ向けに現在それぞれ講演活動を行っているが、全国でこのような勉強会が広がっていくことを期待している。歯科医師が何を勉強すべきかについてはスライド17に示した。今後は卒前教育も再考し、医科歯科連携時代に合わせた教育が必要である。医学医療系総合大学の岩手医科大学であれば、全国に先駆けた卒前教育プログラムができると信じている。

最後に医科歯科連携の将来について触れたい。医科歯科連携の最終目的は健康長寿にある。口腔機能の維持向上が身体機能の維持向上と密接な関係にあることが現在解明されつつある。とすれば全世代にわたる口腔ケアが大切であることは自明で、少子化が進む現在、幼少期からの継続的な口腔ケアに重点をおくべきである。今後は小児科医との連携も大切で、1歳からの口腔ケアを積極的に実施するように働きかけ、健康長寿の秘訣は歯科医療にありと一般国民に広く実感、受け入れてもらうことが大切となろう(スライド18、19)。

萩原 敏之 先生