若き歯科医に伝えたいこと
講師:藤澤 政紀先生
(明海大学歯学部 機能保存回復学講座 歯科補綴学分野教授)
藤澤政紀先生は、昭和59年に岩手医科大学歯学部を卒業(14期)、昭和63年に本学大学院を修了し本学歯学部歯科補綴学第二講座の助手となりました。平成2年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校客員研究員として活躍し、平成9年に本学歯科補綴学第2講座嘱託講師、平成19年に明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野教授に就任しました。
今回の講演では「若き歯科医に伝えたいこと」という演題の通り、臨床研修医の先生方を対象にしたテーマのお話でしたが、内容は我々開業医の日頃の悩みに対しての答えのような内容でした。
「From tidbits to cutting edge」 些細なこと、知っていると得すること。のテーマで症例を用いながらの細かな講演でした。
補綴装置のセットをいかに早く効率よく患者に満足させるように調整する方法、手順、ポイント。
支持域が少なく咬合が安定しない場合のロングスパンブリッジの形成、Temporary Crown、咬合器付着までのポイントの説明。
咬合器の選択、使用法、ガイドの付与などについての咬合器への配慮について。
他に咬合挙上について、顎関節症例、形成、印象、暫間固定、有床義歯の装着、などなどの話を患者さんとの対応、実際の臨床手技、そしてトラブルシューティングまで、視点を変えると「どうしてくれるのよ!」から「ありがとうございました」と180度反応が変わります。そのポイントを補綴臨床を、そして補綴臨床に寄与する為の臨床研究を続けたなかで感じたこと、わかったこと、若き歯科医師に伝えたいこととしてお話いただきました。
最初は咬合に関するtidbitsから。
咬合調整時の咬合紙の使う順序は
(1)反対側から(反対側で引き抜けば、確実に高い。
反対側で引き抜ける時に何度も「高いですか?」と尋ねるのは患者さんに不信感を与える)
(2)隣在歯
(3)支台歯
通常は35um使用しているが、理想は10umだそうです。
次は咬合採得のtidbitsです。
支持域が少ない咬合が安定していない長いブリッジは削る前に咬合採得し、バイトを必要な部分のみ使用し咬合器に付着する。
フルブリッジなどを形成する場合、分けて形成し、その都度Temporary Crownも分けて作り咬合を確認しながら形成をする。来院回数は増えるがチュアータイムは短縮される。高さも変化しづらい。再制作など後々のことを考えると来院回数が増えても確実にできる。
また、形成時に機能咬頭の一部を残して咬合を残した状態で印象、咬合採得をし、模型を咬合器付着したあとに残した部分を落とす。
3つ目のtidbitsは咬合器への配慮。
咬合器の選択はガイドに関与する歯の補綴を行う場合、基本は調整性の咬合器を選択する。その方がチュアータイムを短縮できる。
また、形成前の模型を取って咬合器付着しインサーザルピンでレジンを使いテーブルにガイドをつけておいてから作業用模型を付着すると形成前のガイドを再現することができる。 昔、戦後の上野動物園に「一文字号」というロバがいたそうです。しかし一文字号は高齢の為、歯が何本か無く食べることもできず元気も無かったそうです。すると、石上先生という入れ歯の日本一と言われる歯医者さんが一文字号のためにパーシャルデンチャーを作って入れてあげたそうです。すると一文字号はだんだん元気になりました。しかし、ある日元気になった一文字号は若いロバが柵をジャンプするのを見て真似をして自分もジャンプしたが年老いた一文字号は失敗し怪我をして亡くなってしまった、という逸話をご紹介いただきました。
咬合を取り戻せば元気になるけど、ホドホドに。というお話もありました。
抜歯と顎関節の関係の話になりますが、サルの臼歯部を抜歯して顎関節の関節円盤を調べると、抜歯したあと関節の毛細血管が少なくなっていくという結果が明らかになったそうです。後方支持の喪失は顎関節に対しても悪影響を及ぼす。
傾斜歯をブリッジの支台にするときの話です。テーパーは教科書的には2?5度とされていますが、臨床では実際は7?20度であるそうです。例えば、下顎の8番の近心傾斜歯の場合の形成では近心ではテーパーを大きくし、遠心はショルダーに形成するとテーパーをきつくできるそうです。また維持溝は頬舌的よりも近遠心的につけたほうが効果は大きいそうです。
パーシャルデンチャーのトラブルでパーシャルデンチャーをセット後に鈎歯が抜髄になった場合のクラスプに合わせたクラウンの作り方の話。
暫間固定がすぐはずれる、破折するような場合。何度やり直してもすぐ外れる。このような場合ははずれない場合は歯根破折を起こす危険性がある場合がある。つまりは外れることが安全装置になっている。つまりは「ここはつなげない方が良い」と説明し、咬合調整を行う。咬合調整で骨もだいぶ戻ったそうです。しかしその説明は最初に言わないと意味はないそうです。
「身体表現性障害」についてのお話もありました。詳しくはインターネットで検索して調べてみて下さい。思いあたる経験は皆さんあると思います。このような患者さんには可逆的な治療を行うほうが良いそうです。痛みの要因を見つけていく為にはペインダイアリーを患者さんに書いてもらうのも有効だそうです。痛い日には何があったのか?痛くない日には何があったのか?答えが見つかるかもしれないそうです。
Temporary Crownでは良かったのにCrownにしたら合わないと言うケースの解決法として、「二回鋳造法によるクラウンブリッジの製作法」といのがあります。
これはプロビジョナルレストレーション→クラウンブリッジの作製→口腔内への試適、調整→違和感ということが多々あるので、プロビジョナルレストレーション→一回目の鋳造(ベースクラウン)→ベースクラウン+レジンの咬合面→2回目の鋳造(咬合面部分)→咬合面の鋳接という方法です。
最後に記録を残すことの大切さについてのお話でした。
(学術研修部会 22期 白倉 義之)
実感できる齲蝕予防と保存修復治療
講師:池見 宅司先生
(日本大学松戸歯学部 う蝕抑制審美治療学 講座教授)
前回(32回)の研修会にて、花田先生から齲蝕予防の方法論を基礎的な立場から教えて頂いたのに対して、今回は本学歯学部5期卒業の池見宅司先生から臨床的かつ具体的な齲蝕予防法をご講演頂きました。
ご講演は、フッ素塗布を主とした従来の予防処置の欠点として、処置を施したという術者側と処置を受けたという患者側の両者ともに感覚的な満足感が得られにくかったというイントロダクションに始まり、齲蝕に罹患することによる患者側の経済的損失を述べた上で、PMTCと3DS(Dental Drug Delivery System)を用いた齲蝕予防法と近年の接着歯学の進歩が歯科医療を変えつつあることを述べられました。以下にその要点を挙げます。
1. 齲蝕予防の方法
- 歯面強化法 フッ化物・レーザの応用
- 細菌学的方法 母子感染の予防,PMTCと3DS(殺菌,抗体塗布)、リプレースメントセラピー
- 食生活や悪習慣の改善
- 歯列矯正
2. PMTCと3DSの手順
初診時
- 口腔内診査
- 必要であれば歯石除去
- クロルヘキシジンのアレルギーチェック
- 手順説明(来院予定日の設定)
- ドラッグリテーナー製作のための印象採得
2回目
- ドラッグリテーナー(圧入式,ブロックアウトレジンを用いてスペーサー付与)
- 歯科衛生士によるPMTC(歯間・隣接面部のフロッシング、専用のブラシ・チップ・カップを用いPMTCペーストで低回転、ナノ粒子・HA処理を施した最終仕上げ用ペーストを使用)
- コンクールジェルコートFをリテーナーに注入,5?10分間装着
- リテーナー除去後,含嗽
以後、2回の来院によるPMTCと3DS、来院当日就寝前の3DSを含めて6?8回を集中的に連続で行う。
注意点として、3DS後は水ならびにクロルヘキシジンではない市販の含嗽剤でよくうがいを行う、毎日の歯ブラシを欠かさないように指示する。
3.無痛修復
PMTC+3DSの実感できる齲蝕予防法が確立したが、100%の齲蝕予防は不可能である。
半年から1年に2回程度の来院を指示し(来院患者の増大)、齲蝕の早期発見が可能。
歯質接着システムを利用した無麻酔、無痛、快適治療によ患者側は経済負担が軽減し、仕事で忙しいという人も来院するようになる。
最後に質疑応答の内容を挙げます。
Q:3DS後の含嗽剤の長期連用を避けるというエビデンスはあるか?
A:2週間以上の使用を長期連用としているが、そのエビデンスはない。
Q:3DSの適用年齢は?
A:乳歯列期、混合歯列期は避け、18歳以上の若年者から応用したいと考えているが、
現在のところ30から40歳代がメインである。
Q:補綴処置が施されている口腔内への応用は?
A:天然歯列のみ効果がある。
Q:歯周病への応用は?
A:現状では齲蝕予防効果のみである。
(学術研修部会 16期 遠藤 義樹)