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午前の部
審美歯科の基本のき
講師:大河 雅之 先生
(東京都開業)
近年、 修復治療においては”Retention & Resistance”という長期既存の概念から脱却し Minimally Invasive Intervention(MI)という原則 の浸透が世界的に顕著である。それは接着技術の進歩や歯のバイオメカニクスの解明によるということのみならず、修復治療が目指すべきゴールは本質的に生体模倣(バイオミメティック、バイオエミュレーション)にあるという治療プロトコールのアップデートに他ならない。前歯においては2002年に Magne P らか? BPR(Bonded Porcelain Restorations)の適応症を拡大整理して以来、数々の臨床家がそれらの予後良好な経過症例を発表している。その後、臼歯においても侵襲的なクラウン修復を 避け MI に立脚した直接および間接法の接着修復が研究され行われるに至った。その結果、多くの研究者・ 臨床家により低侵襲フルマウスリハビリテーションの症例報告がなされている。そして、さらに良好な結果を得るためのクリニカルワークフロー、治療プロトコールやマテリアルなどがアップデートされ続けている。さらに演者はMI 修復治療の各ステップにマイクロスコープを用いることによりテクニカルエラーを可及的に防止し臨床的に良好な結果を得ている。また現在、デジタルデンティストリーへのパラダイムシフトの中で、低侵襲フルマウスリハビリテーションのトラディショナルワークフローに、どのようにしてデジタルデンティストリーを有効的に融合させることができるかが重要なディスカッションホイントとなってきている。ここで将来的に予想される低侵襲エステティックリハビリテーションの治療プロトコールにおけるクリニカルディスカッションを挙げる。
1)特に酸蝕症や咬耗、エナメル質形成不全症など先天的および後天的に歯の硬組織が失われた症例や咬合高径を挙上するケースにおいて、Minimal Invasive または Non Invasive によるフルマウスリハビリテーションの症例報告が多く見られるようになった。それでは歯質の削除は本当に必要なのであろうか? もし必要ならどのような場合で、どの程度の削除量とフィニッ シュライン形態が適切なのか?
2)Polymer VS All Ceramics:トラディショナルワークフローにデジタルデンティストリーを融合させるにあたり、適合精度を向上させるためにはどのような工夫が必要か?ミリングに適したマテリアルは何か?前歯と臼歯または Case specification によりマテリアルを使い分けるべきか?
歯肉縁上マージンの前歯ベニア(唇側ベニアおよび口蓋側ベニア)においても臼歯ベニア(オクルーザルベニア)においても、色調に問題がなく目標とする修復形態に対してマテリアルスペース(ただしセラミックとポリマー系では必要厚みは異なる)が十分であれば歯質の削合無し、もしくはアプリズマティックエナメル(小柱構造を持たないエナメル質)、やアンダーカットになる部位への最小限のエナメル質除去によりベニア修復は適切な接着が前提であれば可能と考える。ただし、前歯部唇側は凸面であるのでベニア修復物がスリップしやすいので、歯頚側マージンに多少の形成を行うことを推奨する。口蓋側や咬合面は凹面のため修復物の落ち着きに問題はない場合が多い。修復物の厚みについては、修復部位、咬合状況やマテリアル選択により異なる。概ねポリマー系は弾性があるため破折やチップのリスクがセラミックに比べて低いこと、さらにリペアービリティーに優れることなどからかなり薄くすることは可能である、ただし、未重合層のない間接法のレジンの接着にはサンドブラストや適切なプライマーを使用するなどの工夫が必要である。また、咬合様式がグラィンディングやブラキサーの患者などは口蓋側や咬合面ベニアの磨耗やフィラー脱落による表面の粗造化、修復物のたわみによる辺縁漏洩とその影響と考えられるマージン部の褐線に注意が必要である。セラミックスを選択する場合においては、咬合力を受ける口蓋側ベニアや咬合面ベニアでは、エッチャブルセラミックで強化セラミックでもある二ケイ酸リチウムを、咬合力の強い場合は0.8?1.2mmの厚みで使用することが推奨される。咬合様式がチョッパーであり咬合力が比較的弱い場合はプレス法により0.3~0.6mm程度の厚みにて修復が可能と考える。唇側で歯のたわみが少ない症例においてはエナメル質への接着であれば、加工できる範囲でかなり薄くすることが可能である。二ケイ酸リチウムだけでなく長石系セラミックスやリューサイトなどの使用も可能である。
唇側にフィニッシュラインマージンを設定する場合は、ラウンデッドシャンファーのバーを用いたミニマルなシャンファーが推奨される。咬合面ベニアにおいて頬側はエッジがつくかつかない程度のフェザーシャンファー、機能時に応力がかかりやすい、舌側、口蓋側、最後臼歯遠心部分のラウンデッドシャンファーにはややマテリアル強度の為に厚みをつける必要がある。ただし形成限界はエナメル質内に設定することを前提とする。デジタルアプローチにおいてはSTLデータの性格上、線角エオ再現できないのでエッジロスの影響を最小にするタエにはマージンに丸みをもたせる必要がある。デジタルの精度はかなり向上しているが、内側角を削るミリングバーの細さに限界があるため、しっかりラウンドオフすること、着脱方向を考慮することなどの工夫が重要である。ミリングにおいてはポリマー系の材料の方が片縁を薄くレザーシャープに加工できるなどアドバンテージが大きい。セラミックスにおいても、新しいバーを使用すること、加工時間を長くすること、ブロックの位置付けなどを工夫することにより、0.3mm程度までの加工が可能である。ただし通常はマージン部をやや厚めに加工して3Dプリンターモデルなどを使用してマージンを薄く調整するのが現実的であろう。デジタルアプローチのベニアにおいて苦労するのが隣接面部の処理である。なぜならば、隣接面の歯が接触している部分にロケーションしたフィニッシュラインマージンはIOSが読むことができないからであり、当然3Dプリンター模型のマージンも曖昧となる。私見であるが臨床上三つのソリューソンが考えられるので紹介する。①隣接面以降部のマージンのエッジを付与せず、アンダーカットの削合のみとし、任意の歯面に隣接面マージンを設定する。セラミックスブロックを使用する場合、やや厚めに削り出し、3Dプリンター模型を分割して個歯模型を作成しマージン調整する。②隣接面部マージンフィニッシュラインを歯の接触面より唇側手前に設定する。3Dプリンター模型を分割して個歯模型を作成しソフトウェア上でマッチングしてソフト上の歯列模型を完成させる。③歯間空隙がある場合、隣接面を0.3~0.4mmセパレーションすることでIOSは隣接面を読むことができ、歯間の空いた3Dプリンター模型を作ることができる。
など、Minimally Invasive Esthetic Rehabilitation ( In-direct Approach ) における臨床的な今後の発展と臨床的到達点についてクリニカルケースを通して解説した。
昼の部
CAD/CAM 光学スキャナー 基本のき
講師:大平 千之 先生
(岩手医科大学 非常勤講師)
AD/CADM,口腔内スキャナー,Digital Dentistry
近年、デジタルテクノロジーの進歩により歯科医療は大きく発展し、患者のもつ多様な要求に応えることが可能となってきた。歯冠補綴もオールセラミッククラウンの応用範囲の拡がりとともに大きな変化をみせ、セラミック修復を支える CAD/CAM(Computer Assisted Design/Computer Assisted Manufacturing)システムが急速に進展した。これらCAD/CADMシステムは、製作方法の簡略化を実現し、歯科医師と患者双方の負担軽減を可能としたといえる。 補綴歯科臨床におけるCAD/CADMシステムは、主に作業用模型の三次元形状を計測するシステムを中心に発展してきた。計測器いわゆるデスクトップ型スキャナーは、接触法から非接触法へと変遷し、計測速度が飛躍的に向上している。 デスクトップ型スキャナーは、外光を遮断された状態を確保し、測定対象物を一定の距離で固定して、広範囲で高性能なカメラによって様々な方向から測定を行う。その後ソフトウェア上で自動的に複数のデータを合成して測定データを作成するので手技に左右されないことが特徴といえる。 デスクトップ型スキャナーにより製作過程の効率化が図られる一方、印象採得、作業用模型の製作過程を必要とせずに口腔内を直接計測する光学印象の有用性が高まっている。口腔内スキャナーを用いるこの方法では、支台歯ならびに周囲組織の静止画あるいは動画を撮影後に迅速に三次元モデルを構築することが可能であり、チェアサイドで支台形態を簡便に評価できる。加えて、小型化された口腔内スキャナーを用いることで、従来の印象採得では困難な開口障害や嘔吐反射を有する患者に有効である。すでにセラミック修復においては、支台歯形成から印象採得、補綴装置製作を行い、装着までの過程を1回の診療で終了する(One day treatment system)ことも可能となっている。 現在では、計測方法も多様化し、撮影範囲も歯列全体に広がり、今後さらなる展開が期待できる。また、従来のクローズドシステムから様々な補綴装置製作への対応を可能とするオープンシステムへとシフトしていることも近年の大きな特徴といえる。さらに、測色機能を備えたものもあり、審美的な歯冠修復を行う際に活用することによって、より色調精度の高い歯冠修復が可能となるものと思われる。 しかしながら、測定範囲や部位によっては、唾液等の口腔内環境の影響を受ける場合があり、操作時間が延長し正確な計測が困難な場合もある。また、口腔内スキャナーは測定時間においてデスクトップ型スキャナーよりも優位であるものの、カメラサイズが小さいため、一度にスキャンできる範囲が限定され、随時測定したデータをつなぎ合わせた後に、数珠状に合成しデータ全体を構成し、最終データを作成するため、歪みが生じやすいことも考えられる。そのため,症例によっては適切なCAD/CAMシステムの選択が重要であり、今後もIT(Information technology)の発展に伴いこれらCAD/CAMシステムのさらなる変革があるものと予想され、その発展と変革に我々歯科医師は対応して行く必要がある。
午後の部1
口腔外科 基本のき 抜歯を中心に
講師:八木 正篤 先生
(岩手県立中央病院 歯科口腔外科長)
口腔外科の処置の中で最も頻度が高いのは抜歯である。大学病院や総合病院の歯科口腔外科では埋伏歯抜歯や難抜歯の頻度が高いが、普通抜歯は一般開業医でも頻度の高い治療である。したがって、普通抜歯は歯科医師ならば誰もが行う処置であるが、普通抜歯に見えても骨癒着や歯根弯曲などにより、難抜歯に陥る場合も少なくない。そのため、抜歯前にはレントゲン写真をよく観察し、歯根の弯曲や歯根膜腔の広さなどを十分把握しておく必要がある。
普通抜歯は基本的にヘーベル(エレベーター)と抜歯鉗子だけで行える抜歯のことである。ヘーベルによる抜歯は鉗子による抜歯に比べて歯周組織を損傷しやすいため、歯冠が抜歯鉗子で把持する強度がある場合は鉗子のみで抜歯することを推奨する意見もあるが、抜歯の適応となる歯は矯正治療のための便宜抜歯や、齲蝕のない高度の歯周疾患を除けば、歯冠が崩壊していて抜歯鉗子では把持できない場合が多い。まずは、ヘーベルである程度脱臼させてから残根鉗子などで把持して抜歯するのが一般的である。
また、歯根の弯曲や骨癒着が疑われる場合は歯の分割や周囲骨の削除が必要になるため、あらかじめその準備をしておいた方がよい。歯の分割や周囲骨の削除は面倒くさいと思いがちだが、それを行うことで、抜歯がスムーズになり、時間も短縮できる。
ヘーベルの挿入位置は近心頬側隅角部が基本であるが、歯根の弯曲方向や歯根膜腔の広さなどを考慮して挿入する必要がある。弯曲方向とは反対側の歯根膜腔にヘーベルを挿入すると抜きやすい。また、歯根膜腔が狭小化していたり、骨癒着している場合は歯根周囲の骨削が必要であるが、その際、歯は削らずに骨だけを削るように注意する。歯を削ってしまうとそこにヘーベルの先が当たって、抜きにくくなるからである。
抜歯鉗子は嘴先を舌側あるいは口蓋側から適合させてから、頬側あるいは唇側を適合させて把持するのが基本である。その際、歯肉粘膜を挟み込まないよう、注意が必要である。抜歯鉗子は頬舌的に揺さぶって抜くのが基本だが、歯根の断面が類円形のものは回転作用を加えることもできる。
以上のように、普通抜歯は基本原則を理解しつつ、臨機応変に対処することが、抜歯をスムーズに行うためには必要である。
午後の部2
有床義歯 基本のき その① 印象採得
講師:遠藤 義樹 先生
(岩手医科大学 歯学部臨床教授)
今回の講演では、実際に臨床に携わっている初学者を対象に有床義歯の基本事項を整理してお話させていただきました。今回はその①として印象採得をテーマとしました。
有床義歯の印象採得を行うにあたり、まずは対象とするのが可動性の組織であるということを十分に頭の中で整理しておく必要があります。歯冠修復処置で行われる印象採得とは異なった概念であることを再度意識してください。この有床義歯印象の目的は、脱離に対する抵抗としての維持の増強、機能圧に対する抵抗としての支持面の増大、咬合圧による顎堤上の変位に抵抗する安定性の増加、顎顔面の審美的整復、床下支持組織の保護が挙げられます。
これらの目的を満たす印象採得手法の基本を解説しました。
1.大学教育で学ぶ印象採得
総義歯製作の各過程において、印象以外の全ての問題がその解決を印象の成功に依存していることから、各臨床家が目的とする総義歯補綴の成功を得るためには印象採得が重要な意義を持つと考えます。成書は「辺縁形成(筋圧形成)を行い、義歯床縁は可及的に大きくつくる」と教えていますが、無歯顎口腔には境界線がなく、軟組織に囲まれていることから、成書を理解しないで言葉を信じると大きな誤りを犯します。そこで機能解剖、すなわち義歯床を取り囲む組織がどのように構成されているか、また顎堤の性状および形態を十分に理解し、義歯を支持(support)する領域をどの部分にするかを見極めて、力を加える配分を考えることが重要です。
国内外の多くの歯科大学の教育に取り入れられていることからも分かるように、口腔内の解剖学的・組織学的知識が必要で、卒前教育には欠かせない学習方法です。かつ部分床義歯の印象に不可欠な手法でもあります。その利点として、機能運動印象法が行えない意思疎通が困難な患者など、患者自身でのコントロールが難しい症例において術者の意図する形態を付与しやすいことが挙げられ、さらに顎堤状態の良否の違いやインプラントオーバーデンチャーなど、それぞれの症例に応じた治療目標によって義歯形態を可変でき(impression making)、かつ床下組織を選択的に加圧できる印象方法です。
一方、術者が周囲組織の特徴を踏まえながら動きをコントロールすることから、印象技術が難しく経験の差が出やすい。よって経験の少ない術者にとっては再現性が少なく、とくに開口すると下顎義歯が浮き上がるといった患者の訴えが少なくないのも事実です。
すべての印象方法に通じることですが、適切な予備印象(概形印象、一次印象)が最も重要で、確たる目的意識を持って術者主導の辺縁形成を行うことが本印象法の優位性を活かせると考えます。まずは適切な予備印象(概形印象、一次印象)採得を行うトレーニングを徹底して行って下さい。
2.下顎吸着義歯印象
「吸着」という言葉が多用されつつある昨今でも、最新の歯科補綴学専門用語集への収載はありません。しかしながら、義歯に対する患者満足度には、顎間関係の正確性が強く関連し、これには下顎義歯の維持が大きく影響することから、下顎義歯の強い維持力を求める手法が着目されつつあり、「吸着」の技法を確立された東京都でご開業の阿部二郎先生は、現在国内のみならず、世界各地で講演依頼が殺到されています。吸着を得るための手法については、阿部二郎先生のご著書を熟読されることが一番です。「吸着」を目的とした閉口機能印象法は、トレーとなる咬合床の設計を誤らなければ、比較的容易かつ短時間に印象採得が可能な術式です。この手法においても適切な予備印象(概形印象、一次印象)採得が重要で、義歯床下ならびに周囲組織の変形を可及的に少なく、安静時の静的な口腔内の形態を印象するから始まります。
3.コンパウンド印象(術者主導による辺縁形成印象法)と吸着印象(患者主導による辺縁形成印象法)の違い
コンパウンド印象(術者主導による辺縁形成印象法)の義歯の目的は、「筋の付着部まで義歯床を伸ばし、それによって十分な耐圧面積を確保することで咀嚼能率の向上を達成する」ことであり、その中に「吸着」という概念は含まれません。一方、吸着印象(患者主導による辺縁形成印象法)の義姉の目的は、「口腔粘膜組織によって義歯床の全周封鎖を達成し、義歯の動きの減少により機能の向上を達成する」ということで、前者のターゲットは「筋肉」、後者のターゲットは「口腔粘膜」ということになります。また、機能の主役は筋肉ですが、封鎖の主役は義歯床全周囲が口腔粘膜に接して封鎖が完成することから、吸着の主役は筋肉の上に層状に乗っている口腔粘膜です。目的と主役がそれぞれ異なるということをよく理解しなくてはなりません。
4.上顎総義歯印象法
対合歯列である下顎歯の残存状態と、下顎歯の欠損に至る過程に応じた顎間関係の変化により、上顎の床下粘膜の状態にはさまざまなバリエーションが存在します。この床下粘膜の状態に応じた印象採得には、後縁封鎖部を除いた 無圧印象が最適です。
概形印象は加圧型の開口印象と口腔粘膜の状態をできるだけ変形なく静的閉口印象する方法に分かれます。前者は加圧することで粘膜がピンと張られて模型上で筋の付着部(骨面)が簡単にわかることから、各個トレーのラインも筋の付着部を目指した大きなサイズになります。筋の付着部を主体とした設計です。しかし、圧力をかけて印象を取ることから、口腔内を大きく変形させています。一方、静的閉口印象は口腔内がありのままに近い状態で印象採得されます。個人トレーの概形も顎堤粘膜にフィットして、小さめに描かれます。そこから患者の口腔粘膜の活動の強さに応じて印象が機能的に拡大されることで過剰拡大(overexpansion)を防ぎます。過剰拡大は粘膜の反発力となり、その結果として全周の辺縁封鎖が破壊されます。個人トレーのラインはいつもほぼ同じに描かれますが、当然、個々の粘膜の活動量は違うことから、個体差を患者主導型の辺縁形成でカバーしていき、可動性の高い組織に対しては個人トレーの内面をリリーフして印象材による変形を防ぎます(無圧印象)。これにより義歯床内面に陰圧が作られる吸着閉口安静時の印象を採得します。
これまでの教科書は主としてテクニックの紹介が主であり、総義歯の印象がどうあらねばならないか、という本質的な解説を示したものは少ないと感じています。その理由として、総義歯の印象方法には従来から国内外で種類と手法が多く、そのいずれも一長一短がある上に、術者のスキルや熟練度によって臨床成績に極端なバラツキが生じることから、特定の印象方法の推奨が困難であるためと考えられます。そこで日常臨床においては誰かの方法を採用することとなり、これに手慣れてしまうとどれを応用してもある程度の成績が得られることから、自分の方法でよいものと錯覚してしまい、疑問を感じなくなる臨床家が多いのが実情と考えます。以前と比較して総義歯補綴の基礎実習ならびに臨床実習が十分に行えなくなった現状では、大学を卒業してほぼ初めて総義歯補綴を手掛ける歯科医師も少なくないと聞きます。今後は、統一された基準をもとに、よりシステマティックな製作方法の検討がさらに進んで行くもの考えますが、超高齢社会を迎えた現代ではそれぞれの症例に応じてさまざまな手段を用いる必要があると感じています。
今回の講演が、少しでもお役に立てれれば光栄に思います。