岩手医科大学
歯学部同窓会

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第38回(平成22年5月30日)

「接着技法が補綴処置に必然な訳と成功に導く勘所」
ー接着ブリッジに25年間関わった経験からー

近藤 康弘先生
近藤 康弘 先生

講師:近藤 康弘先生
(岡山大学歯学部 臨床教授  倉敷市開業)

 齲蝕治療で接着性コンポジットレジンを応用し、健全歯質を極力削除しない修復処置が既に一般臨床で広く行われている。しかし、接着技法が歯質だけでなく金属やセラミックあるいはハイブリッドセラミックス等へ拡大したにも関わらず、間接法を主体とした補綴処置では依然として接着技法を応用して歯質保全を図ろうとする機運が低調であることも事実である。この原因は、臨床効果の検証が十分にされておらず昨今いわれているエビデンスの不足と共に、充塡処置とは異なる要素が特に接着ブリッジにおいて必要であることが理解されていないことも原因ではないかと思う。
 講演の中では接着ブリッジを中心に以下の項目についてお話しした。

1、人間の歯、そして日本人の歯

これは、歯の形態が強く遺伝子により支配されており、日本人固有の歯の形態を考慮した接着ブリッジのデザインが必要であること。

2、接着ブリッジの歴史

接着ブリッジは1980年頃から、世界各国で報告され始めたが、当初の術式では臨床成果は十分得られなかったことから、今日までに幾多の技術開発がなされ大幅に改良されている。

3、臨床成果として、岡山大学で行った臨床データは「15年生存率は67%」

15年生存率ではCreugersらが従来型ブリッジで74%と臨床統計の結果を示している。我々の結果もその数字に近いものと理解している。すなわち、「ブリッジ自体の生存率は接着ブリッジにしたから高い。」とお話ししたのではない。支台歯の生存率82%を同時に示したが。この結果が、従来型と違っていると考えている。同じ欠損補綴でも、この支台歯を長く維持できる点こそ接着ブリッジのメリットと考えている。また、患者の治療後の満足度も治療成績以上に高かった。再治療するごとに歯質や支台歯を失って行く事で、歯科治療に対する批判を受ける事があるが、まさしくこの点を解決できるのが接着ブリッジではないかと思う。

4、日本補綴歯科学会による接着ブリッジのガイドライン

従来、医療術者間でばらつきがあり、治療効果にも差がでていた点を解決するため、学会が中心となって医療技術の標準化が図られており、様々な疾病に対する治療法がガイドラインとして策定されている。日本補綴歯科学会でも、接着ブリッジ法について2007年にガイドラインをまとめているので、この内容について解説した。特に接着ブリッジのデザインについても詳細に書かれていおり、ホームページ(http://www.hotetsu.com/)から学会会員以外でもダウンロードできるので活用して頂きたい。

5、補綴処置のエビデンスの検証

「エビデンスによる臨床が大切である。」と云われて久しいが、そのエビデンス自体に信頼性の高いものから、さして高くないものまで幾多の評価がある。中でも、後者を引き合いに出して自分の臨床を正当化することが一番危険である。そのために臨床エビデンスの検証が大切だが、今回はOXFORD大学のCEBM ( CENTER FOR EVIDENCE BASED MEDICENE)から、「コホート研究の系統的レビューが最も信頼性が高く、次いで比較研究、そしていくつかあるエビデンスの中でも単なる専門家の意見として述べられるエビデンスが最も評価が低い」と評価されていることを紹介した。

6、今後の接着技法の展開

接着技法はすでに幅広く歯科臨床で応用されているが、今後はさらにメタルレスの方向で歯科材料が進化応用されて行くと考えられるが、接着技術が不可欠な技術であることは間違いなく、若い先生方には、この分野への探求を忘れないでほしいことをお伝えした。

7、まとめ

このたび、岩手医科大学歯学部同窓会の第38回学術講演会でお話する機会を得て、同窓会の皆さんと大変貴重で楽しい時間を過ごす事ができ、逆に私の方が感謝申し上げたかった。特に、岩手医科大学は私ども卒業生にとって原点であり、今回の講演でも同窓生からアドバイスや文献を頂いていることを講演中でも紹介した。また、今まで岩手医科大学主管の学会で多くの発表をし、自らの研鑽の場として活用させても頂いた。

 最後になりましたが、今後とも岩手医科大学の良さが活かされながら母校が発展することを期待すると同時に、同窓の皆さんのご健闘を遠く西日本から応援している気持ちを記して事後抄録とさせて頂きます。

平成22年6月記

現在の前歯・臼歯接着ブリッジのデザイン
岡山大学第一補綴科の接着ブリッジの15年生存率、第1小臼歯欠損補綴症例
歯周外科処置後の欠損補綴併用症例

小手術の要点

横田 光正先生
横田 光正 先生

講師:横田 光正先生
(岩手県立中央病院 歯科口腔外科長)

事後抄録
32年の口腔外科臨床に従事し、診断学や外来小手術、顎顔面外科手術などを研修してきました。研修初期に出会った水平埋伏歯の抜歯に関する論文では、平均18分間で抜歯を行った報告に(当時の口腔外科外来では約1?2時間が普通でした)大変驚きました。幸いにも米国留学時にMayo Clinic研修の機会に恵まれ、たくさんの素晴らしい手術を研修することができました。
Mayo Clinicでは4本の智歯抜歯を(下顎水平埋伏歯2本と上顎智歯抜歯2本)鎮静療法下に15分で抜歯していました。世界一流の手術を導入することを目指し、無駄を省き、無痛、低侵襲の手術を心がけてきました。米国留学、スエーデン研修など海外の手術を経験する機会を得て自分なりに納得するものを求めてきました。退職を機会に、教育職員組合の講演でMayo Clinicについて、圭陵会歯学部学術講演で小手術の要点について講演する機会を得ました。現在、活躍中の諸先生やこれからの若い研修医の先生方に少しでも役立てばよいと思います。

 私自身では、ほとんどの水平埋伏歯を局所麻酔用カートリッジ約1本(1.8ml)と約15分間前後で抜歯しております。しかし、4本抜歯の機会がありチャレンジしましたが25分かかりました。欧米と患者さんも手術器械も異なりますので一概に比較はできませんが、共通するのは神経走行に対する確実な麻酔と簡略化された手術術式により可能ではないかと考えています。単に麻酔量の多少や手術時間の短縮のみを目指しているのではなく、術前術後の麻酔効果による苦痛、腫脹や疼痛の軽減により抜歯恐怖症の患者さんが一人でも少なくなることを願っています。術後の投薬も欧米では消炎鎮痛薬の1週間内服が普通ですが、抗生剤との併用4日間ほどで、頓用鎮痛薬の内服も7?8割ほど必要ない状態にすることができました。いままでの方法では、智歯抜歯に異常なほどの恐怖感を持たれている患者さんが大勢おります。術前に患者さんに心配しなくてもよいことを説明しても容易に信じてはいただけないようです。そして、埋伏智歯などを放置して重篤な症状(口底蜂窩織炎や縦隔洞炎)になる症例を経験しています。講演を参考に智歯抜歯がそれほど困難ではなく侵襲が少なく行えれば、術者である歯科医はともかく、患者さんには喜ばれるものと考えております。

 外来小手術時に問題となる全身疾患や服薬(抗凝固剤やビスフォスフォネート:BPなど)について概略について説明しました。現在は抗凝固薬の休止と有害症状発現の危険性について天秤にかけたうえで、抗凝固薬の休止をしない外科処置が一般的になってきたため、ガイドラインを供覧し対診の上で安全に行うべき方法を提示しました。

 また、現在注目されている骨粗鬆症の治療薬ビスフォスフォネートとビスフォスフォネート関連骨壊死・骨髄炎(BRONJ)について、対診による投与前外科処置や投与開始後の外科処置の状況、治療法などが問題になります。静脈内投与の場合と内服とではその原因疾患も発現にも差があるようですが、新薬の発売などで内服でも十分に配慮すべきであると思われました。インプラント後のBRONJの症例では自分の患者さんがいつBP製剤を投与されるかわからないため、普段より患者さんと十分なコミニュケーションをとる必要があると思われました。骨とインプラントの関係から骨移植を併用したインプラント症例を提示しました。診断と骨増生の方法については、歯槽骨の幅の増生は容易でしたが、歯槽骨の高さは不十分であり、審美的に困難な症例がありました。手術時に十分増生していても、待機中に吸収するものや2次手術時に骨吸収が認められたりします。さらに増生した骨は本来の歯槽骨とは異なり、インプラント周囲炎で容易に吸収したり、長期のメインテナンスを通して経過観察を要することがわかっております。

水平埋伏歯の抜歯は要領よく分割する インプラント2次手術時に発症したBRONJ
横田 光正先生

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(岩手医大歯学部 口腔保健育成学講座 小児歯科学分野講師)

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